被相続人が亡くなった場合、相続人がその財産を相続することになり、その際には相続税が発生します。しかし、借金などによりその納税が困難である場合は、どうすればよいのでしょうか?
今回は、借金で相続税を払えない場合について、また払えないとどうなるのかについて、詳しく解説していきたいと思います。
借金で相続税が払えないときは延納制度を利用しよう
納税は、国民の三大義務であり、全ての国民が税金をきちんと納めなけれななりません。しかし、借金などをしていて税金が払えない状態にあれば、いくら義務であっても厳しいものです。例えば、故人から相続されるものが金銭であればそのまま相続税を支払うことは容易ですが、不動産であれば金銭ではないので相続税が払えないということも起こり得る事態です。
しかし、法律にはそんな時の救済措置である相続税延納制度というものが設けられています。
相続税における延納制度のメリットとデメリット
相続税延納制度は、相続税が10万円を超えている場合など、その他の条件を基に、相続税の納期をのばしてもらう制度です。しかし、この制度にはメリット・デメリットがあるので、きちんと理解しておく必要があります。
相続税延納のメリット
相続税が一括で払えない場合の相続税延納制度のメリットは、なんといっても相続税の分割払いが適用になるところです。また、相続税は最長で20年の支払い期限延期が可能な上、相続した財産の一部を相続税の支払いや借金の返済に充てながら支払いが出来るという良さがあります。
相続税は一度で払う金額が大きくなることも珍しくはないため、借金などの事情がある際は払えないということも発生します。そういった場合に、分割払いの制度があるというのは非常に助けになるといえますね。
相続税延納のデメリット
相続税延納制度のデメリットは、延納を認めてもらうまでに様々な書類が必要になるなどの手間や、延納しているだけ相続税に利子がかかり、通常よりも多く支払いをしなくてはいけなくなるという点です。また、延納するためには担保となる不動産などが必要になります。
こちらの担保は相続された不動産などでも差し支えはないようですが、それに伴い、様々な提出書類を用意しなくてはならないため、非常に億劫に感じるかもしれません。また、相続税延納制度にある相続税が金銭で払えない場合というのは、自らが所有している不動産や貯金などをほとんど手放したうえで、払えない状況であるという位置づけをされています。相続税のために持っている財産が少なくなる可能性があり、そういった意味ではデメリットも大きいといえるかもしれません。
延納することで相続税が払えるなら制度を利用するべき
しかし、借金などをしていて相続税が払えないという場合に一括で全額を払うと、抱えている借金の返済のみならず生活まで立ち行かなくなってしまいます。相続税延納には様々な障壁はありますが、相続税が払えないから借金をするなどの無限ループに陥りかねない場合などは、躊躇せず延納制度を利用することが懸命な判断です。
まずは自分の生活を最優先に考え、決して自分の生活が苦しくならないように取捨選択していきたいものですね。
借金で相続税の利子税が気になるなら物納制度を利用する
借金などの理由から、どうしても相続税が払えないとき、さらに担保となるほどの金銭を所有していないというときには、物納制度というものがおすすめです。物納制度は、自分の持っている財産の一部を担保として、相続税をの支払いに充てることができます。
以下について、それぞれ解説していきます。
相続税の物納制度とは
物納制度は、相続税が払えないときや延納が難しいとき、持っている株式や不動産を売却して相続税として納めるという方法です。物納で相続税を納める場合は、専用の書類を用意するなど難しい手続きをして申請を出さなくてはいけません。
また、物納制度が税務署に受理されるまでは通常の相続税延納制度と、同じく利子税がかかったり、不動産などの評価額を安く見積もられてしまい損をするなど、時間と手間の割にうまみがあまり得られないという可能性があります。
相続税の物納制度を利用できる条件
順位 | 物納に充てられる財産 |
第1順位 |
①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式
②不動産または上場株式のうち、物納劣後財産に該当するもの |
第2順位 | ③非上場株式
④非上場株式のうち、物納劣後財産に該当するもの |
第3順位 | ⑤動産 |
上図は国税庁から引用してきたものですが、物納制度にはその優先順位が明確に決められています。
そして、物納制度を利用できる条件としては、延納しても相続税の納税が困難である場合などに適用されるもので、全ての人が利用できるわけではありません。納税が極めて困難である人のための、救済処置のような制度であることを覚えておきたいですね。
不動産の財産割合が大きく、借金で相続税が払えない場合の解決方法
財産を相続する際、現金よりも不動産の財産割合が多い場合、かかる相続税も多額になり、また相続する現金が少ないことにより、支払いが困難になるのです。このような事態になった場合、どのようにして相続税の解決をしていくのでしょうか?
不動産としての相続を諦めて売却したお金を借金の返済に回す
遺産相続が、不動産1,500万円、現金200万円と仮定したとします。この場合、1,700万円を相続することになりますが、かかる相続税が300万円だとすると、結果的には差し引きで1,400万円の財産を相続することになります。
しかし、そのほとんどが不動産による財産なので、現金で言えばマイナスになってしまい、お金に余裕がなければ相続税を支払うことはできません。こうした場合には、不動産を売却して、相続税の支払いに回すしかなくなってしまうのです。
不動産を担保にお金を借りて借金返済や相続税に充てる
相続税の支払いのために、わざわざ不動産を売却してまで、金策を立てる必要があるのですが、どうしても不動産の売却はしたくないという人には、他に方法があります。それは、不動産を担保にして、金融機関から融資を受けるという方法です。
この方法であれば、不動産を所有したまま、相続税の支払いができることになりますし、借金返済などの金策を立てることもできます。ただし、融資されたお金をきちんと返済していけなければ、不動産を手放さなければならなくなるので、その点は注意したいですね。
借金で相続税が払えないときの最終手段「相続放棄」
被相続人の財産を、必ず相続しなければならないわけではなく、相続人は相続か放棄かを選択できる権利を持っています。
なので、仮に財産よりも借金のほうが多く、相続人にとって不利益になる場合は、相続放棄という方法を取るのが最善ということです。
以下について、それぞれ解説していきます。
相続放棄するメリット
相続放棄のメリットは、やはり借金などの負の財産を相続する必要がないということです。被相続人の財産を相続したいという気持ちはもちろんあると思いますが、財産よりも借金のほうが多い場合は、相続人は借金を相続するということになり、決して有益とはいえません。
また、早々に相続放棄をすることで、身内での相続人を決める話し合いに参加する必要がなくなり、相続人争いに巻き込まれることがなくなります。
相続放棄するデメリット
相続放棄は、一度してしまうと撤回することができなくなります。そのため、相続放棄をした後に多額の財産が判明し、相続人に有益である場合においても相続することはできなくなってしまいます。
また、相続すべき人が相続放棄をすると、次順位の人に、相続する権利が移るため、きちんと相続すべき人たちに申告しておかないと、あらぬ相続トラブルを招いてしまう恐れがあります。
負の遺産(借金)が多い場合は相続放棄した方が良い
相続放棄は、プラスの財産・マイナスの財産、どちらか一方だけを相続または放棄することはできません。そのため、相続人に与えられた3ヶ月という熟考期間の間に、できる限り被相続人の財産状況を調べ尽くし、どちらの財産のほうが多いか見極める必要があります。
その結果、マイナスの財産のほうが多いと判断すれば、迷わず相続放棄を選択するようにしたいですね。
相続税には非課税枠が存在する
相続税は、被相続人の財産を相続する際に発生する税金ですが、中には非課税になる場合があります。相続した財産が一定額に満たない場合などが、それに該当するようで、これを非課税枠と呼びます。
以下について、それぞれ解説していきます。
相続税の非課税枠計算式
相続税の非課税枠は、相続すべき法定相続人が多ければ多いほど、その金額が高くなります。相続税の計算において、基礎控除というものがあり、この金額の分だけ、相続税がに非課税になります。
基礎控除額は、ベースが3,000万円に対して、600万円×人数という計算式になり、ここでいう人数とは、法定相続人となります。
生命保険による相続税の非課税限度額
被相続人が死亡した場合などにおいて、生命保険などを掛けていれば、死亡保険金などが発生することになります。このような財産を、みなし相続財産と呼び、民法上と税法上でその扱いが大きく違います。
このみなし相続財産には、非課税枠があり、法定相続人1人に対して、500万円ということで、場合によっては、大きく節税も図れることになりますね。
配偶者の存在による非課税枠
相続税の配偶者控除という制度を使えば、16,000万円まで、相続税がかからないようにすることができます。実際に、この制度を利用するには、相続税の決められた期限内までに、申告書の作成をし、提出する必要があります。
相続するに当たって、相続すべき最優先である配偶者は、被相続人の財産を相続するに当たって、非常に有利な制度を利用することができるのですね。
借金で相続税が払えないまま放置することによるリスク
借金などで相続税を支払えないのであれば、最初から相続放棄すればよかったのですが、その知識がない人は多いと思います。仮に相続税を払わないまま放置し続けると、どのようなリスクが発生してしまうのでしょうか?
相続税の脱税となり懲役刑が科せられる
相続税は税金であり、それを支払わずに放置するということは脱税となり、懲役刑が科せられてしまうことがあります。基本的に誰かが亡くなった時点で税務署へ連絡がいくことになっており、税務署は全てわかっています。
そのため、相続税を放置してもすぐに督促がきますし、納税から逃れることはできません。懲役刑になるケースというのは、それらの督促を無視し再三の催促にも応じない悪質な納税者に対して行われる手段になります。
罰金も課される
相続税の放置によって、様々な罰金が課せられることがあります。まず無申告加算税というもので15%の加税になり、加えて悪質と判断されれば重加算税というものが発生し、これは40%の加税になります。
さらに申告した税金が不足していた場合には、過少申告加算税というものがあり、さらなる追徴が発生します。正直罰金だけで相当な金額になってしまうので、それなら最初から素直に納税しているほうが良いというものです。
借金で相続税が払えないときは債務整理も一つの手
借金によって相続税の納税が厳しいのであれば、一度債務整理によって借金を整理するようにしたいですね。知識がないのであれば、弁護士や司法書士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
任意整理
任意整理では、債権者との話し合いによって利息カットが見込め、その後の借金返済が楽になります。また、裁判所を通さない債務整理なのでわざわざ裁判所に出向く手間が省けます。
債権者に利息カットを譲歩させるために、3年以内での完済が求められるのである程度の返済能力が必要となります。任意整理は、債務整理の中でも極めてかかる費用が安価で、ハードルの低い解決方法です。
個人再生
任意整理では、借金の解決が見込めないほど、借金が高額である場合は個人再生がおすすめです。個人再生では、借金が多ければ多いほど、その恩恵は大きくなります。
最大で4/5もの借金の減額が見込めるので、一気に借金の解決が見込めます。ただし、任意整理同様、3年ないし5年以内での完済を求められるので、返済能力が必要にはなります。
借金で相続税が払えないときは制度を利用して解決しよう
相続税は、基本的に発生することになり、必ず納めなければいけない税金になります。そのため、相続税の納税が厳しいのであれば、現存する制度を利用して解決していく必要があります。
場合によっては、債務整理などを行い、借金の解決を図らなければならなくなります。間違っても、支払えないからと放置することだけは避けるようにしたいですね。
▼借金があるから相続放棄したい!できないケースはあるの?▼借金があるから相続放棄したい!できないケースはあるの?