夫婦間でのお金の貸し借りは、日常の結婚生活でも通常行われる行為と言えます。特に共働きでは無い場合、収入がある方がもう片方にお金を渡すことも、実質的には借金と言えるでしょう。
けれども実は種類によって返済義務の有無があり、可能な限り正確な整理をしておくことが大切なのです。この記事では夫婦間の借金についてご紹介しています。
夫婦間の借金でも基本的に返済義務がある
結論から言いますと、夫婦間の借金でも原則的に返済義務を負います。ただしそこには例外や気を付けておかなくてはいけないポイントがいくつかあり、もしもの時に夫婦間で不要な争いを避けるためにしっかりと理解をしておかなくてはなりません。1つずつ整理し、確認をしていきましょう。
このような借金は夫婦間のものでも返済義務がある
まず最初に、夫婦間でも原則返済義務が生じるケースについて簡単に整理いたします。「返済義務が無い」などと勘違いをしておかないよう、しっかりと理解しておきましょう。
個人的に高額な買い物のために借金した場合
借金をした目的が個人的で高額な買い物のためであった場合は、夫婦間と言えども返済義務を負います。こうした目的の支出は貸した側からすれば自身の生活に何ら必要のない費用であり、基本的に自らに何の利益も生みません。
したがって返してほしいとの意思表示に応じてもらうことは、ある意味で当然と言えます。
ギャンブルなどの趣味のために借金した場合
借金をした理由がギャンブルなどの趣味のためであった場合も、夫婦間と言えど返済義務を負います。ギャンブルのために使ってしまったお金は基本的に貸した側には還元されないため、夫婦の会計で負担する必然性はなく実際にサービスを利用して利益を得る人が負担すればよいものです。
こうした理由での貸し借りは気軽に考えるのではなく、実際に「いつ」「いくら」貸したのかをきちんと記録して不要な争いを避けるようにしましょう。
夫婦間の借金、返済における金利はどうなるのか
次に、夫婦間の借金における金利についても、通常の金融業者との貸し借りで用いられる「出資法」と「利息制限法」の観点から詳しく共有していきます。少々細かい話ではありますが簡単に整理していますので、肩に力を入れずにご確認してみてください。
出資法は夫婦間の借金においても適用される
まず出資法については、夫婦間であろうと金銭の貸し借りであれば適用されます。個人間での貸し借りの場合、年率で109,5%、うるう歳の場合は109,8%までで貸し付けを行わなくてはなりません。
これらの金利を超えて貸し出しをした場合には出資法違反となり、もし貸し付けたり利息の支払いを要求したりすると、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金の刑に問われることとなるのです。夫婦間と言えども、一定常識的な約束の上での貸し借りが要求されるということでしょう。
利息制限法も同様に借金においても適用される
もう1つの利息制限法についても同様に、夫婦間の借金でも適用されることになります。こちらの上限金利は下記のように借金の金額によって15%~20%の間で決まっています。
- 10万円以下は年利20%
- 10万円以上100万円未満であれば18%
- 100万円以上なら16%
もしこれらを超える金利で貸し付けを行った場合には当該貸し付け契約が無効になります。無効になれば当該契約がそもそも最初から存在しなかったこととなるため、債務者側は一切の返済義務を負わないこととなる点には留意が必要です。
夫婦間の借金でも返済義務が無い場合とは
ここでは、夫婦間で借金をしたとしても返済義務が無い場合について共有をいたします。原則として「夫婦で協力して通常の社会生活をするための費用(婚姻費用と言います)については、借金をしても返済義務が無い」という点がポイントです。
借金を日々の食費や日用品などに使った場合
返済義務のない費用としてまず挙げられるのが、日々の食費や日用品などに使った費用です。これらの費用は元々夫婦でそれぞれ分担して負担すべきものと考えられます。
そのためどちらか一方がもう一方に借りて使ったとしても返済義務は発生しないのです。日用品や日々の食費などはどちらが代表して負担したとしても結局は2人で分け合って消費し利益を得るものですから、感覚的にも理解できる整理と言えます。
借金を子供の習い事の月謝など教育費に使った場合
夫婦間での借金を子供の習い事の月謝や、子供の教育費に使ったような場合でも、返済義務は発生しません。ですので仮に妻が夫にお金を借りて子供が通っている学習塾の月謝を支払っていたとしても、その費用に関して妻は夫に返済する義務はないということです。
これらの費用に関しても、元々夫婦が分担すべきものである婚姻費用に当てはまると、法律上は考えられています。
借金を医療費に使った場合
「夫婦間で返済義務のない借金」として少し意外な印象を持つ人もいるかもしれないのが、医療費に使った場合です。先ほどお話をした「日用品のための費用」や「子供の教育費」と同様に、実は医療費も婚姻生活を維持していくために必要な日常で発生した費用として法律上扱われます。
そのために夫婦間で貸し借りをして医療費を支払った場合も、返済義務のないケースとして考えられているのです。
生活費や教育費に用いられる夫婦間の借金に返済義務が無い理由
これまで紹介してきたように、生活費や教育費については夫婦間の借金に返済義務がありません。その理由について整理をすると以下の2つの理由にまとめられますので、ここで共有いたします。
夫婦には経済面でも助け合う義務があると定められている
民法第752条では、「夫婦は同居し、お互いに協力し扶助しなくてはならない」との規定があります。ここで言う扶助には相互的な経済的援助も含まれており、夫婦は家事の分担等だけでなく経済的にも助け合って社会生活を送る義務があると考えられているのです。
この条文は、夫婦の関係が非常に密接であることを表している条文であるとも言えます。
婚姻生活で必要な費用は互いの収入に応じて分担することになっている
先ほどお話しした通り、夫婦は経済的にも協力し合う義務を課されています。そのため婚姻生活で必要な費用はお互いの収入に応じて分担することとなっており、これらの費用は夫婦共同の家計から支出するのが通常であると整理されているのです。
逆に「婚姻生活を維持するために必要とは判断されない個人的な高額支出や趣味・ギャンブルへの支出については、返済義務が発生するのである」とも言うことができます。
夫婦間の借金は離婚のときどうなる?
夫婦間の借金が問題となって顕在化するのは、ほとんどが離婚の時であると言えます。そのためここでは離婚の際の夫婦間の借金という観点で整理をいたします。
返済義務の無い借金の場合
夫婦間での借金が返済義務のないものの場合、原則として離婚時に相手方へ請求することはできません。離婚協議の際に貸した側が仮に主張をしたとしても、返済を強制することは難しいでしょう。
返済義務がある借金の場合
返済義務がある借金の場合は、離婚のための条件を決める話し合いの時に、具体的な返済方法を話し合っていくことになります。例えば貯金等の金融財産があれば、借りていた側への配分の際に借金に相当する金額を控除して配分する等の方法が取られて調整されるのです。
ただし財産分与に相当するものがなく精算が出来ない場合などでは、離婚協議書に詳しい金額や返済方法を記載しておき、離婚後の返済とする方法も取られます。
夫婦間の借金は返済義務があるものとないもので確り整理しておこう
夫婦は精神的にも経済的にも助け合い、社会生活を維持していく必要があります。もちろん婚姻中はお互いがお互いを信頼して助け合っている場合が通常と言えますので、夫婦間で貸し借りをしたとしてもお互いにそれほど重く受け止めないのがほとんどかもしれません。
けれども万が一夫婦関係が上手くいかなくなったり離婚ということになったりした時、返済義務がある借金か否かの整理がしっかりとなされていなければ必要以上の争いを生む要因にもなりかねません。
夫婦間の借金と言えども、返済義務があるものとそうでないものとを確実に整理しておくことが大切なのです。